この間先輩と背理法を教える話になったので、その時のまとめを公開。
#前置き。大学の数学で出てくるような厳密さは省略。論理とメタ論理の記号の使い分けだとか、どの公理と推論規則を使っているかという話はナシ。述語記号すら出てこない。恒真とか恒偽とか充足可能とかも無視。ゴマカシといえばゴマカシだが、命題論理モドキで進行。ターゲットは高校生。
何より気になったのが、背理法の定義(というよりは、初出の説明と言うべきか)。
P⇒Qを証明するために、Qを否定して矛盾を導けばよい。
ん?、私は
Aを証明するために、Aを否定して矛盾を導けばよい。
で習ったんだが…なぜこんな風にしているか?? こっちの方が素直な形だと思うんだが…?!
#あまりにも当然のようにしていることは、時々その仕組みを忘れてしまう。大人が時々説明ができなくなることとは…経験の中に明示された仕組みが溶けてしまうからか。それはともかく…
背理法の使われる場面として、何らかの前提条件がある、そのために「P⇒Qを証明するために、Qを否定して矛盾を導けばよい。」としておいてくれている…親切心だと思うけれども、P⇒Qの形にならない場合には背理法は使えないか?? と思わせる形はよろしくないと思う。
#Pを空欄にして、⇒Q:前提無しに真となる、と読ませれば良いんだ、というような論法は高校生向けとは思えないので、事前に撃墜しておく。
とりあえず、私の背理法の直感的理解を書き出してみる
まず…¬は否定を意味することとします。
普通の(?)証明では、#直観主義の話は当然ナシ(^_^;)
排中律: A or ¬A
を認めておいて、
A⇒B を ¬(A and ¬B)
: 「推論が正しければ、真から偽を導くことはない」
と読んでいる。
はて、Aを証明するために、¬Aを仮定して、矛盾(偽、成立しない命題)を出す。
#ここでは「矛盾」は C and ¬C の形の式を指す。当然偽。学生の発言を聞いていると、矛盾をすっきりと捉えられていないフシがある…。
つまり、
¬A ⇒ C and ¬C
をする。
はて、この推論自体は正しいから(この論理式が正しいから)、¬Aは偽、
選言三段論法から、
(A or ¬A) and ¬(¬A) ⇒ A
:「AかAじゃないかだろう?? AじゃなかったのじゃなかったらAだろう」
#¬¬Aで、二重の否定を除去してよいとして、Aでもいいけど。
という感じだ。日本語で書くと、
「AかAじゃないかだろう?? AじゃなかったのじゃなかったらAだろう」
「Aでないとしたら偽。Aでないものから矛盾が出た」
「矛盾は偽。論法が正しくて偽が導かれたのだから前提『Aでない』も偽」
「だからAである」
P⇒Qを証明するためにQを否定する…の話と、モヤモヤの原因4つ
モヤモヤの源についての、私が疑うところをリストにしておこう。
- そもそも、Qを証明することと、P⇒Qを証明することの違いが分かっていない??
- (P⇒Q) を否定するのか、Qを否定するのか分かっていない??
- 問題文のどこからどこまでがPで、どこからがQか分かっていない??
- P≠>Q という摩訶不思議な記号に関する誤解か??
1.そもそも、Qを証明することと、P⇒Qを証明することの違いが分かっていない??
この違いが…結論(Q)の正しさと論法(P⇒Q)の正しさの概念が一緒くたになり、
さらに、
論法の正しさをテストするためには、Pが真として、Qが偽ではない…真。を言えばよい
ということと、
(ただ単に)Qの正しさをテストすること
が一緒くたになっているのがモヤモヤの原因の一つか??
#ここが分かりづらい人はP⇒Qの真理値表を睨むべし。
2.(P⇒Q) を否定するのか、Qを否定するのか分かっていない??
もしかすると、背理法の仮定、つまりP⇒Qを背理法で証明する場合に否定するもの、について、二通りの説明を見てしまったのではないか(教科書と参考書etc.)とも疑っている。つまり(P⇒Q) を否定するのか、Qを否定するのか、どちらが正しいのか、この辺りで混乱してモヤモヤとしているのかもしれない。
¬(P⇒Q)⇒R and ¬R
¬(¬(P and ¬Q))⇒R and ¬R :「⇒を¬(否定)とandであらわしただけ」
P and ¬Q⇒R and ¬R :「二重否定¬¬をキャンセルしただけ」
この3つは同値。つまりP⇒Qを否定して矛盾(R and ¬R)を導こうと、前提Pを真としてQを否定して矛盾を導くのも同じ事。
#こんな計算では納得できない、という人は、⇒について真理値表を睨んで、P⇒Qが正しくない、ということは何と一緒なのか、式を日本語で読み解いてみてほしい。そして緑の式の部分を睨んでみてほしい。
ただ、より一般性のある形をした、
「Aを証明するために、Aを否定して矛盾を導けばよい。」
を知っておいて、その特殊な形としてAがP⇒Qの場合があって、つまり
「P⇒Qを証明するには、P⇒Qを否定して矛盾導けばよい」
があり、さらに便利な形として、
「P⇒Qを証明するには、Pを真とし、Qを否定して矛盾導けばよい」
があると理解するとすっきりするはず。
3. 問題文のどこからどこまでがPで、どこからがQか分かっていない??
数学の問題では、よく、
xを正の整数とする。xが偶数の時に、《A》ならば《B》であることを示せ
というように書いてある。はて、この問題で、ならば、と書いてあるが、どこまでを前提(前件)として読めばいいのか?? Aだけなのか、ならばの前すべてか??
2.では三通りの背理法の「説明」を見てきたが、前提がある限り結局どれを選んでも良い。だからどこまでを前提としてとっても構わない。Bを否定して矛盾を導けばいいのだから。
#背理法だけではなく、対偶を考えるときにも浮かぶ疑念だと思う。さて対偶の時にはどうなるかというと……
#この疑念は私も指導教官に聞いたことがある。いつもは意識せずに使えてしまうということは恐ろしいこと。
4.P≠>Q という摩訶不思議な記号に関する誤解か??
これは本で読んだ。
ε(エプシロン)‐δ(デルタ)・〓と〓に泣く―数学の盲点とその解明
# Amazon では文字化けしている…
ε(エプシロン)‐δ(デルタ)・∀と∃に泣く―数学の盲点とその解明
です。絶版か。
P⇒Qの否定を、P≠>Q (P⇒Qに斜めの線を入れて否定した??) と書いて、
PならばQではない
と読ませて、その意図するところは、
P⇒¬Q
だったりする。
¬(P⇒Q)でも、P and ¬Qでもない。同値ではもちろんない。
これで背理法を説明している参考書がある、という話が載っていた。
これと同様の間違いをしているか、そんな参考書を読んでしまって混乱しているんじゃないか??
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